こんにちは。ヴァイオリニストの塚本香央里(つかもとかおり)です。
私の両親は音楽家ではありません。
父は日本の高度成長期を支えたサラリーマン世代で
昭和ひとケタ生まれでもあるので
黙々と働き
家族のために時間を惜しんで協力し
家事子育ては母に一任でした。
その頃の男性にしては背が高く
学生時代に野球をしていたこともあり
姿勢が良くて
学校行事などで父が見学に来るのは
ちょっと鼻が高かったです。
母は専業主婦でしたが
本人曰くあまり料理が得意ではなく
いつも気が重かったそうです。
少しおっちょこちょいで
チャーミングなところもありましたが
怒ると(めちゃくちゃ)怖かったです。
いつもこざっぱりとした装いで
ふわりとシャネルの香水を香らせていたので
私自身もかなり若いころから香りには鼻が利きました。
PTA役員や役職を引き受けることも多かったのですが
どちらかというと家族の予定を優先していたので
それほど忙しそうにしている様子を見ることはありませんでした。
両親とも私たち姉妹には
音楽の世界を
わからないなりにも理解をし
大きな愛情をもって育ててくれてました。
小さいころから私たちのおけいこに共に通い
両親にとっては全くの未知の世界である
音楽の道に進む私たちに
音を上げずについてきてサポートしてくれたなぁと思います。
その頃のお稽古事は
指導する先生の言いつけが絶対。
とにかく従順にレッスンに通って
先生の言うことを丸のみして
言われたことをきちんと守ること。
その後、私も姉も
ドイツでの生活で
音楽に対する姿勢が変化してきたので
両親も理解するのに苦労したかもしれません。
自分にはわからない世界って
本当に不安で、あれこれ手を焼きたくなります。
そして、これで良いのか、あれは必要なのか、
こんな準備をしてみたら、ここへ行ってみたら…と
口出すことも多くなると思います。
言われた方は、自分で考えることもなく
準備されたものをこなしていくことに
必死になります。
もしかしたら
その方が安心安全で
手間がかからず目標地点にたどり着けるかもしれません。
そして、自分で考えたわけではないので
たやすく人のせいにできるかもしれません。
だって、私が選んだんじゃないもの…と。
私の両親は敢えてそのことをしませんでした。
「あなたの演奏を聞くのが好き」
「あなたの演奏している姿を見るだけで充分」
ただそれだけ伝えられ続けていました。
もしかしたら・・・
もしかしたら・・・
私たち姉妹への情熱が、そこまでなかったのかもしれませんが・・・
聞く術はありません。
いま、親の立場になって
音楽家の親から
音楽家の娘たちへの立ち位置に
ちょっと戸惑うこともあります。
どこまで言って良いのか?
どこまでサポートしたら良いのか?
わかりすぎる世界だからこそ
言った方が良いこと
言わない方が良いことがあるように思えます。
どちらかと言えば
言わないことの方が多い私は
もしかしたら
娘たちには不評かもしれませんね。