こんにちは。ヴァイオリニストの塚本香央里(つかもとかおり)です。
私の留学生活の記事、最終回は帰国を決意した話です。
自分の音楽を深めつつ
近隣国で開催されるコンクールを受けたり
コンサートの依頼があって演奏したり
オーケストラでの経験が次へのステップになって
ドイツでの生活はとても充実していました。
毎日演目の変わるオペラ座での仕事は
本当に楽しくて
今日はバレエ、明日はオペラ
来週はシンフォニーコンサート、と
少しずつ演目の詳細が分かってくると
自分の技術も上達してきて
更に高みを目指してチャレンジしてみたい気持ちも沸き上がりました。
他のオーケストラのオーディションを受けながら
少しずつ手応えを感じていたのも事実です。
そんなこんなで
私はあまりその先のことを考えていませんでした。
「自分の音楽を追求したい」という思いだけで
ドイツでの生活を続けていくのか?
日本へ帰るのか?
ぼんやりとした思いを頭の隅に追いやりながら
選択を先延ばしにしていたように思います。
ただ
「私はいつか日本に帰ろう」
「日本で基盤を作りたい」
ということは常々考えていました。
「人生のパートナーは日本人がいいなぁ」ということも
理由の一つかもしれません。
(日本食ってやっぱりおいしいね、って一緒に食べたいと思った)
20代後半になれば、当然結婚も視野に入ってきます。
私はどんな人生を送りたいんだろうか?
音楽家をあきらめずに
子どもを育てながら
更なる自分の音楽を深めていきたい
欲張りな思いしか浮かびませんでした。
そんなにうまくいかないよな~とも思っていました。
夫に出会ったときに
「この人とだったら一緒にその道を究められるかもしれない」
と思いました。
いろんな話をしながら
彼も私の音楽家としての演奏を聞いたり
オペラの仕事を見に来たり
その先のことを考えてみたり。
最終的には
私自身が「よし、日本に帰る」と決意して
彼に結婚を申し込みました(←逆プロポーズ)
きっと、意見の違いもあるだろう。
うまくいかないこともあるだろう。
でも、ここで決心しなければ
私は日本へ帰る機会を失ってしまう。
全てが「だろう」という仮定の話でしたが
あの時の決断は間違っていなかったかな、と思います。
夫はいつも、この時の話になると
「あの充実した生活から君を引き離すのはもったいない、と思ったし
日本に帰ってきたことを後悔させたくなかった」と言っていました。
あの時決めた決断に
迷いがなかったわけではありません。
もう少し、オーケストラの仕事を続けて
他のポジションに挑戦していたら
違う出会いがあったかもしれない。
もっと演奏の経験を積んでおけばよかったかも。
あのままドイツにいたらもっと余裕のある生活だったかも?
たら、れば、の話の結末は誰にもわかりません。
自分が決断したものしか残っていないのです。
私は自分の決断したことで
得たこと
失ったことを
よくわかっているつもりです。
その経験はいま
娘たちの話を聞いて
私自身の経験談を語ることで役に立っています。
先人の経験談を聞くことは勉強になります。
たとえ時代が違っていても
状況が変化していたとしても
受け取る側が真剣に耳を傾けることができれば
解釈は無限大になります。
いま、二人の娘たちが海外で奮闘中です。
そんな話も
今後、お伝えしていければと思っています。