「巴里ひとりある記」高峰秀子(河出文庫)
1951年6月から翌年1月までの間、そのうちの6ヶ月近くを過ごしたパリでの生活についてを綴る。
本人は辛いこともあってけれど、楽しいことを綴ることが好き、という著者の心もあって内容はどこまでも明るい。
そこかしこに
「それは大変なことだよね」とか
「その状況の裏側は寂しいかも」
という私の余計な思いが漏れ出てしまう。
海外に一人で暮らすというのは、思っている以上に寂しくて厳しい。
それがその生活に必死だったり、なにか目標があったりすれば何とかやり過ごすことができるが、
後で思えばホロリとすることが多い。
50年代当時のヨーロッパは日本から遠かった。
南回りで延々と乗り継ぎをしながらパリにたどり着く様子はそれだけでため息が出る。
パリに到着しても「お金がない」ので洋服はいつも同じもの。
そのうち仕立て屋さんでコートを注文して採寸する様子はさすがに女優。
5歳から子役として仕事をしながら、学校へも行けず撮影場所がすべての勉強場所だった彼女が、
「これではダメだ」
と一念発起してパリへ行く様は、意地悪な見方をすれば、
「そら、女優さんの一興だから、いろんな支援者がいるじゃない。大したことない。お嬢さんの気まぐれ」
と思うが、読み進めていくうちに
「そうではないらしい」と謎が深まる。
その答えは彼女がその後、50歳間近に書いた「わたしの渡世日記」で明らかになるのだが。
とにかくこの1冊から、私にパリの景色がありありと想像できた。
それは、意外なことに彼女の描写が的確だったからに違いない。
そしてパリは、今も昔も基本的なところは変わらないのだ、と歴史の大きさを感じざる得ない。
所々に描かれたスケッチがおしゃれで小粋。
彼女はやっぱり本物の女優で才能があるんだな、と思い知らされる。