こんにちは。ヴァイオリニストの塚本香央里(つかもとかおり)です。
我が家にはレコードのLP版が50枚くらいあるでしょうか。
ターンテーブルもあります。
どれもちょっと埃をかぶっているし、
ターンテーブルを動かすには手順があるので、
その説明書を読むことから始めなければなりません。
私はレコードを聴いて育ちました。
LP版もドーナツ版も聴きました。
ドーナツ版は幼稚園の私でも操作させてもらえて、
ドキドキしながらレコードを聞いていた記憶があります。
「アタックNO.1」や「アテンションプリーズ」の主題歌をエンドレス聞いていました。
聞くだけでなく大声で一緒に歌っていました。
ドーナツ版用の穴に合わせたアダプターをカチリとセットし、回転数45のスイッチを入れます。
その操作を間違えると回転数が違うためにヘンテコな音楽が聞こえてきます。
たまにわざと間違えて、クスクス笑いながら聞いていました。
ボール紙で作られたケースの中に入っている薄いビニールから
そっとレコードを取り出して、
ターンテーブルに置いてスイッチを入れて、
そーっと針をレコードに置く瞬間。
時々手が震えて針を落としたりして・・・
一人で焦っていた記憶がよみがえりました。
そうそう、ペラペラのソノシートもありましたね。
雑誌などの付録についていて、お話の一部を聞くことができました。
音楽というよりラジオに近い感じで聴いていました。
何度も繰り返し聞いて、内容も丸暗記していたような気がします。
一回目に実家の家じまいをしたときに、思い入れのあるレコードだけ物置から掘り出して新しい家に運び込みました。
いつかゆっくり聞こうとクローゼットに置いてありましたが、
父が亡くなって行き場を失ったレコードたちを、今度は私が引き取ることになりました。
100枚近くあったのですが、その中から選びぬいて50枚ほどにまとめました。
どれも思い入れのあるものばかり。
たとえば
父と母が好んで聞いていた4枚組のムードミュージック曲集。
巨匠カラヤン指揮のベートーヴェン交響曲全曲集。
私が中学生くらいの時に勉強のために買ったハイフェッツやシェリングのヴァイオリン協奏曲の数々。
姉が大事にしていたリムスキー=コルサコフの「シェヘラザード」やウェルディの「レクイエム」。
父がモスクワの空港で買ってきたチャイコフスキー交響曲第5番の素晴らしい演奏。
などなど・・・
どれもエピソードを語れるくらいお気に入りの物たちです。
私のお気に入りは、ムソルグスキー作曲の「展覧会の絵」。
A面がオーケストラ版で、B面がピアノ独奏というとても贅沢なレコードでした。
「今日はどちらを聞こうかなぁ」
と選ぶ楽しみがありました。
今の世の中は、手軽に音楽を聴くことができて、操作をしなくてもエンドレスに聞いていることが可能です。
レコードは全曲聴くためにひっくり返さなければならないし、
レコードに傷がつかないように慎重に針を落とさなければならなかったり。
とにかく手間がかかります。
あの時代、みんなそれを当たり前のように、手間暇をかけて音楽を聴いていました。
ちょっと懐かしい思いに駆られますが、私は今の時代の音楽の聴き方も好きです。
この原稿を書きながらYouTubeで延々とカフェミュージックを流しているのは、
これもまた本当に贅沢だなぁとも思うのです。
そういえば、
長女が大学生の時に、学校近くにレコード店をみつけて興味津々で眺めに行ったそうです。
何を買うわけでもなく、
探すでもなく、
レコードというものをただ見たかったそうです。
今の若者のなかにもレコードに関心を寄せる人がいるらしく、名盤はかなりの高値で売買されているとか。
次の休日には、
両親の好きだったレコードをかけてみるために、まずは説明書を読んでみようかしら。