こんにちは。ヴァイオリニストの塚本香央里(つかもとかおり)です。
言葉の苦労をしながら始まったドイツ留学生活。
担当教授から大学内で開催される
ピアノとヴァイオリンのデュオコンクールへの参加を勧められました。
優秀な成績であれば、全国大学コンクールへの出場権が得られるとあり
教授陣も采配を問われます。
当然、各クラスから精鋭が送り込まれるということもあり
選ばれるだけでも光栄なことでした。
(賞金もなかなか良い金額であった…)
私はポーランド人の女子と組むことになりました。
2歳年上で同じ修士課程で勉強しているとのこと。
楽譜の受け渡しのために電話をした日、
私はセリフをメモに書いていたのですが
どうしても通じない部分があり彼女を困らせました。
(なるべく早く渡したい、と言いたいところを
”早く”の単語を省いていたので意味が分からず何度も聞き返されて
やっと私が間違いに気づいた、という…)
それでも
私のおぼつかないドイツ語にも辛抱強く相手をしてくれて
彼女とは音楽以外でも本当にお世話になりました。
ポーランド人は奥ゆかしい人が多く
あまりグイグイと迫ってくる感じがなく
距離感がちょうど良かったです。
心を開いて話すタイミングも
ゆっくりと時間をかけてだったので
彼女と様々な話ができるようになったのは
一緒に演奏をするようになって
半年を過ぎてからでした。
彼女はポーランドで音楽教育を始めたのですが
両親のドイツ移住に伴って
ギムナジウム(大学進学を目的としているので勉強が大変な教育過程)に入学して卒業しています。
ドイツ語で論文まで書いているので
とにかく頭脳明晰。
話題の幅も広くて、話していてとても楽しかったです。
私の会話力は彼女との話で磨かれました。
ヴァイオリニストはピアノと一緒に演奏することが多く
室内楽も慣れているほうですが
ピアニストは室内楽の経験はなかなかめぐってくるものではありません。
彼女は経験が少なかったので苦労することも多かったと思います。
ピアノの技術は優秀だったので、見る間に上達していきました。
「カオリ、一緒に映画を見に行こう!」
彼女に誘われて、たくさんの映画を見に行きました。
ドイツの映画館は、ほぼすべてがドイツ語吹替なので
ちょっと不思議な気がするかもしれません。
(ケヴィン・コスナーがドイツ語しゃべってる~って驚きました…)
アクション映画・ラブストーリー・コメディ等々
見たい映画を片っ端から見ました。
「シンドラーのリスト」を見た時は
満席のドイツ人に囲まれながら
二人で何とも言えない思いになりました。
そのあとはお茶を飲みながら音楽論や政治経済、
生活の知恵から家族のことまでなんでも話しました。
彼女の家族にもお世話になりました。
ドイツ生活2年目には
クリスマスを彼女の家族と過ごしました。
「クリスマスを一人で過ごすなんて!うちにいらっしゃい!」と
豪快なお母さんに誘われて
伝統的なポーランド料理をごちそうになったことは
貴重な経験です。
歯科医のお父さんは私の虫歯を治療してくれたし
いつも私の両親の心配をしてくれました。
「娘が一人で外国に住んでいるなんて心配に違いない」といって
「この家を自分の家のように思いなさい」と言ってくれました。
海外でのひとり暮らしは
孤独で危険と隣り合わせでもあります。
信頼できる人や心許せる家族に巡り合えるのも
なかなか至難の業でもあるのです。
その当時も偏見や差別は存在していましたし
そのためにイヤな思いもしました。
身を助けてくれるのは自分の音楽。
そしてコミュニケーション。
拙くてもいい
完全でなくてもいい
とにかく自分の思っていることを
伝える努力。
それは今の自分にも言えることで
大切なことは今も昔も変わらないのかもしれません。